書籍紹介

「建てる前に読む本」(書籍紹介)

書籍紹介
  • 作品社 2003年10月 初版発行
  • (現在、改装第三版が販売されています)
  • NPO法人 家づくり後援会 編集
  • 非営利第三者機関である家づくり後援会が編集した著書です。文字数が多く読み応えのある本ですが、一通り目を通して損は無い内容だと思います。巻末には各地の推奨工務店が記載されていますが、この辺はあくまでも参考として捉えて良いかと思います(業者選びは自分の目で確かめることが肝要なので)。
  • 本の中で、特に大事だと思う箇所について紹介します。ぜひ家づくりの際の参考にされて下さい。

「欠陥住宅の悲劇」

  • 家づくりのシステムは、大工さんの木工事を中心として、極めて複雑な分業によって行われています。家づくりの工程は、工程の上に工程を積み重ねる方法であるため、工程が進むにつれて、前の工程が隠れる特徴を持っています。深刻なトラブルに発展するケースの大半は、隠れた工程における工事ミスが原因で起こっています。逆に言えば、誰の目にも発見することができる工事ミスには深刻なものは少なく、直すものも簡単で、修理費用もそれほどかかりません。
  • 工事ミスの原因が故意か不注意かは別として、ミスに気付かず工事を進めてしまうと、そのミスが隠されてしまい、誰も気づかないままに家が完成するという事態に立ち至ってしまうのです。一軒の家が完成するまでには多くの人間がかかわり、1つ1つの工程を順番に積み上げていきます。リハーサルのない本番作業なので、ちょっとした行き違いが取り返しのつかないミスに結びつく可能性が常にあります。
  • 世間を騒がせている欠陥住宅も、小さなミスを見過ごすか、あるいはミスへの対応をうっかり怠ったことで起こる、いわゆる「うっかりミス」が欠陥住宅につながるケースが大多数を占めていると見られています。

「現場責任者の不在」

  • かつての棟梁といわれた人たちは、職人である前に営業担当者であり、設計担当者であり、また現場監督として現場のすべてを把握し、良い家を造ることを己の信条にしていました。大工仕事ばかりでなく、左官、屋根職、建具、経師など、家づくりにかかわるあらゆることを自分の仕事として責任を持ち、施主に対していい仕事を納めることを使命と心得ている人たちでした。したがって、施主は棟梁を見てさえいれば、家づくりがどんな風に進むか、安心していられたのです。
  • ところが今は? 営業担当者は契約を取ることだけを考え、契約を取れば後は知らないとなり、設計担当者は図面を仕上げることにのみ熱中し、現場担当者は、とにかく契約期間内に工事を完了し引き渡すことを命題としています。分業システムが理想的に機能すれば作業効率が高くなり、且つ専門化による質の向上が期待できるはずですが… 家づくりに伴うトラブルが続出している現状は、無責任体勢という分業化の割い面が露呈していると思えてなりません。

「人まかせは後悔のもと」

  • 家づくりについて、ある種の錯覚があるようです。それは、素人である自分がいろいろ注文をつけるよりも、有名な建築家や施工業者を信頼して任せる方が良い家ができると思い込んでいる人が意外に多いということです。
  • 私たちの所にはさまざまな相談者が来ますが、家づくりの失敗を嘆き後悔する人には共通のパターンがあります。その共通性とは、人任せで家をつくってしまったという点です。人生の舞台となる家づくりに関して、自分の意見をしっかりもたず、設計者や施工者に引きずられ、挙句の果てに人任せにしてしまう人のなんと多い事か! そして、こういう人に限って、家づくりの失敗を嘆くのです…
  • まさに「後悔先に建たず」です。人任せにせず自分の意思とアイディアで家づくりをすすめらば満足と達成感はさらに大きなものとなります。これが後悔しない家づくりの鉄則です。

「業者選びの難しさ」

  • 現代における業者選びの難しさは、かつてのように顔が見え、技量もわかり、評価も定まっていた棟梁という存在に代わり、つかみどころのない企業という存在を相手にしなければならないところにあります。
  • 大手ハウスメーカーの建設費が中小ハウスメーカーの比べ高いというのは半ば常識化しています。大手ハウスメーカーの経営は分業化によって経営の合理化を図っているものの、莫大な需要を常時確保する必要から巨額の宣伝費と販売経費が不可欠となっています。また自社で施工するのではなく系列の工務店に下請けに出すというシステムのため、これらに対する管理費、教育費、利益供与なども決して小さくはありません。メーカー側は建築資材の大量仕入れによるコストダウンを主張しますが、莫大な間接経費の前に、コストダウンの効果は需要者に反映されていないのが実情です。
  • 業者選びに窮した挙句、「大手なら安心」と安易に決める人も多いようですが、本書を読み進む過程で、その判断が正しいかどうか考えなおしてみてはいかがでしょう?
(相手を選ぶのは難しい…)

「業者選びのポイント(抜粋)」

  • 地の利を考える:施工効率を考えると、できるだけ施工現場に近く、地域の事情に明るい業者を選ぶのが賢明です。通常の場合、施工会社がカバーする事業範囲は、事業所を中心に移動半径1時間以内と言われています。理想的には30分以内の範囲で選ぶのが良いでしょう。
  • 元請け業者が望ましい:施工業者には元請け、下請けがあります。元請けは施主から直接注文を受け施工する業者のことです。元請け業者は規模の大小にかかわらず、自社独自の施工チームと企画力、仕入れルートを持っていて、独立独歩の経営をしています。一方、下請け業者は会社規模が大きくても独自性が乏しく、企画力、現場管理、資材仕入れルートも元請け依存が強いため体力的にも弱く、いざという場合の対応力は心もとないものがあります。
  • 10年以上の事業実績を持っている:建築業界は保守性が強く、新規参入が難しい環境があり、同じ地域である程度の年月、実績を積まないと同業者も相手にしないのです。一般的に少なくとも10年程度同じ地域で施工経験を積まないと、地域の業者に信用され、地域の環境にあった住宅をつくれるようにはならないようです。1つの土地で10年の間廃業することなく事業を続けていることは経営状態を知る上でも1つの目安となります。
  • 仕事場を見る:意味は、仕事の丁寧さや職人の仕事ぶり、仕事場の雰囲気を知るという事です。現場の整然とした印象、現場で働く職人の働きぶり、現場監督の指示の出し方、こうした施工現場の雰囲気は業者の姿勢をうかがい知る上で参考になります。業者を決める前に必ず現場見学をしましょう。
  • 「有名だから」で選ばない:業者選びで最も安易で主体性のない方法は、「有名だから」という理由で選んでしまうことです。「有名」に実態は無く、あえて言えば宣伝広告に莫大な費用をかけた会社で、その分建設費が高いということを示しています。「有名な会社」=「大手」とうことですが、彼らは全国に下請けネットワークを作り、施工を委託しています。企画、設計、資材供給、現場管理全てが本社の意向で動き、契約後の変更要請や企画変更は容易ではありません。また竣工後の管理は管理専門の別会社に移管され、施工業者の手を離れることが殆どです。つまり「有名だから」という大手信仰を捨てることが、安くて良質の家を手に入れるコツです。

「家づくり環境の変質」

  • 昭和30年の後半頃までは、殆どの場合、施主は地元の大工、棟梁を施工者として選び、契約等は交わさず、おおよその予算と竣工時期を口約束で確認しあえばそれで万事遅滞なく進んだものです。アフターケアも大きな台風が来ると、その前後に頼みもしないのに見回ってきて、心配な部分に手を加えて帰っていくのが普通でした。
  • 昭和40年代に入り、高度成長経済モードに入ると、いわゆる持ち家制度と言われる住宅産業振興策が取られ、住宅は儲かる産業に変身したのです。住宅建設は町の棟梁の手から、大規模ハウスメーカーの手に移りました。我が国のように大規模なハウスメーカーが存在するのは世界広しと言えども日本だけの現象です。これがその後の日本における家づくりの環境を極めて特殊なものに変えてしまったということが出来ます。
  • 特に近年、住宅需要は減少傾向に入り、企業間の競争は激化しています。大手ハウスメーカーの殖産住宅や太平住宅も倒産しています。状況下、無理ない契約、無茶な工事が急増しており、家づくりにかかわる訴訟件数もうなぎのぼりに増えているのが現状です。
  • 消費経済が発達するにつれて、住宅産業は設備、家具、家電といった広範囲な消費を伴う魅力的な産業として注目されるようになりました。結果、不動産業、鉄道業、製造業、はては自動車産業までがこの市場に参入しています。新聞やテレビでの広告を始め、さまざまなキャンペーンで客の歓心をあおり、客の方も、まるで自動車が化繊製品と同じ感覚で住宅を購入することに抵抗を感じなくなっています。住宅供給の方法も、業者にリスクの少ない建売方式、建築条件付き土地売り方式と言った新商法が登場してきました。
  • 家づくり後援会(注:本書の編集者)に相談に見える方の大部分は、いわゆる大量生産、大量販売を行っている業者や、売り立て方式、建築条件付き土地売り方式といった方法で住宅を購入した人たちからのもので、注文住宅で家を建てた人からの相談は極めて少ないのです。
(高度成長期に家づくり環境が激変した…)

「施工業者に都合の良い契約書」

  • 企業間の顧客獲得競争の激化に伴い、家づくりにかかわる訴訟件数もうなぎのぼりに増えています。東京、大阪の地裁には家づくりにかかわるトラブルを裁く専門セクションができ、訴訟件数の多さから裁判期間も2、3年と長期にわたるケースが多く、施主、施工者いずれにとっても悲劇的な状況です。
  • なぜこのようなトラブルが起こるのでしょうか? トラブルの起こった事例の施工請負契約書を見ると、これが極めてずさんで、業者にばかり都合の良い契約内容になっていて、これではいざ裁判に持ち込んだとしても、施主にはまず勝ち目はありません。
  • 契約トラブルに巻き込まれないためには、施主自らが契約の重要性を把握し、注意を払うことが大事です。ここで契約書にハンコを押す前に確認し、当事者間で承認しあう事項について整理してみました。

① 住宅の設計図面、予算については実施計画に基づき合意する。

② 施工の整理、検査等、工事ミス防止項目について具体的に決める。

③ 工事中、竣工後の事故、損害についての補償について具体的に決める。

④ 工事遅延の場合の存在補償、及び遅延自由の範囲について具体的に決める。

⑤ 引き渡し後の瑕疵補償、アフターケアについて具体的に決める。

  • 少なくともこれらの各事項について納得できない限り、契約書にハンコを押すべきではありません。

「あるべき契約のあり方」

  • 現在一般的に行われている請負契約で、最も問題になっているのは設計、仕様を詰めない時点で施工請負契約が結ばれていることです。原因としては契約を急ぐ施工業者の事情がありますが、早く契約を決めてすぐにでも家を建てたいと焦る施主側の思惑も働いていることは否めません。
  • 契約を交わす前には、家づくりのすべての条件を確定することです。実施設計図面、最終的な仕様の決定、施工費用、工程と施工方法の確認、その他の契約約款の確認等、当事者間ですべてクリアにしてから契約書に捺印することです。

「穴だらけの公的検査」

  • 公の行っている施工中の検査としては、金融公庫の中間検査、特殊建築物などの特定工程の検査、建築基準法で決められている完了検査などがあります。
  • 「公的公庫の中間検査」:住宅金融公庫の融資を受ける場合に、建築確認申請や金融公庫の仕様に基づいて施工されているか否かを確認するもので、一般には特定行政庁が代行して行います。検査としては、建物が建ちあがって、金物、筋交い、断熱材等の施工が完了した段階で現場に来て検査をします。但しここでの検査は法的に適合しているか否かであって、施工精度を見るものではありません。つまり違反建築の防止は出来ても、欠陥住宅の防止にはなり難い面があります。なおかつ実際の現場の検査時間はわずかで、ひどい時には5分程度で済ますことがあります。
  • 「特殊建築物などの特定工程の検査」:これはその地区の行政庁がそれぞれ定めている建築物に対して行っている検査です。通常の木造2階建て、専用住宅などは対象となっていない場合が多いようです(自治体によっては全ての建築物に対して行っている(注:ちなみに私(まさげん)の住んでいる自治体も全ての建築物が対象でした)。この検査では、構造的に問題がないかどうかが検査対象であるため、構造計算通りの施工がされていて、金物などが適切な場所に使われていればよしとします。ここでも施工精度については検査対象外ですが、構造的な問題については欠陥の発生防止となっています。
  • 「完了検査」:建築基準法に定められている、工事完了に伴い検査済証を取得するために行う検査です。これは建築確認申請により許可された建物はすべて受けなければいけないものです。しかし残念ながら法で決められている検査にもかかわらず、実際に検査を受けている建物は非常に少ないのが現状です。
  • このように行政が行っている検査は違反建築の防止が第一であり、なおかつ全ての施工段階で検査を行うわけではないので、実際には法の網の目をかいくぐるような施工現場が多数存在します。

「大手メーカーに都合のよい住宅性能評価」

  • 2000年4月に施工された法律の定めにより、任意選択としての「住宅性能評価」をできることになりました。しかし施工されて2年を経過しても殆ど活用されていないようです。これにはさまざまな理由がありますが、ことに大きいのは、この性能評価制度が大手ハウスメーカーに有利であり、一軒一軒を手作りで作っている地場工務店には対応しきれない制度になっている点です。また第三者制が全く欠如していることなど、運用面で多くの問題を掛けています。
  • 性能評価の方法についても、間取りによる壁の取り方、窓の大きさ、仕様する建材による火災の対応、空気環境、断熱性能などが対象になっているため、大手ハウスメーカーが行っているような一定の規格による設計、仕様であれば規格認定を取ることで検査書類、検査回数が削減されるスケールメリットが期待できます。それに比べ自由設計であったり、顧客の希望で一棟ごとに違う仕様で建てる場合には、そのたびに膨大な書類作成が必要となってきます。そういう意味でもこの住宅性能評価は、大手ハウスメーカーに極めて都合の良いものになっていると言えます。

「家づくりはマイペースで」

  • 家づくりは自己表現の場であるからこそ、施工業者のペースではなく、マイペースで焦らず進めていきたいものです。
  • 家をつくることは、経済的にも大きな負担で、それこそ清水の舞台から飛び降りる決心がなければ、なかなか結論を出せません。しかし不思議な事に、これほど迷いに迷い、やっと家づくりを決意した瞬間、ほとんどの人は一日も早い家の完成を望むようになります。
  • 実はここに家づくりの落とし穴があります。まず肝に銘じることは、家づくりを急いで得をすることなど何一つないということです。家づくりを急ぐ気持ちが無理な契約、無理な施工に結びつき、とんでもない結果を招くことがあるということを十二分に承知してください。
  • 条件はさまざまですが、家づくりを決意してから竣工まで、少なくとも2年程度の時間的余裕をもつのがよいでしょう。

「間取りプランは自分で描こう」

  • 間取りの作成は、家づくりを行う過程で重要なポイントになります。家族の数だけ暮らし方があり、その暮らし方にフィットする間取りが最適の間取りと言えます。どんなに優秀な建築家に頼んだとしても、お任せで良い間取りプランを作ってもらえると思ったら大間違いです。
  • 家の建築を依頼する場合、まず具体的な形で自分の要望を伝える必要があります。その時、拙いでもいいですから自分で作った「間取りプラン」をもとに話し合うとようでしょう。「間取りづくり」は自由にアイディアを広げ、建築上の約束事等はきにすることはありません。ここで間取りプランと言っている作業は、住宅設計上は「企画設計」といいますが、企画は家をつくる上で最も重要な作業で、この作業がずさんだと納得のいく家は出来ません。そしてこの企画設計を人任せにせず自分自身で行う事こそが家づくりのカギとなります。
  • 実際の設計作業では、さまざまな建築上の約束事を守る必要があります。しかしイメージのしっかりした「間取りプラン」が出来ていれば、構造の問題、法規の問題、立面デザインなどは専門家がうまく調整してくれます。そのプランが素晴らしければ、それに触発された専門家がさらに優れたアイディアを付け加えてくれるはずです。
  • 普通、専門の設計事務所でも企画設計(「間取りプラン」)は最も経験のある有能な設計者が受け持ちます。しかしこと家づくりについては、この最も重要な作業を施主自らが受け持つのが理想です。なぜなら、自分の暮らしをデザインできるのは、自分自身をおいて他にないからです。

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