書籍紹介

「柱の太さで家を決めるな!(間違いだらけの「強い家づくり」)」(書籍紹介)

書籍紹介

発行 2002年6月13日

著者 平田俊次(ミサワホーム)、滝本喬(フリージャーナリスト)

発行所 株式会社プレジデント社

著者はミサワホームの方で、木造住宅の耐震と安全面に関する技術の第一人者と言われている方のようです。この本は、ブックオフでたまたま見つけて購入した古本でしたが、家づくりにおいて参考となる内容について紹介したいと思います。

「地震に強い家」

  • 木造寺院や明治時代頃にまで建てられていた民家は「柱を太くすること」で地震への耐性を持たせていた。これに対し現在の木造住宅は、地震への強さを「柱の太さ」には求めていない。
  • 現在の木造住宅は、「筋交い」と「柱」が壁を構成し、これが強さを造る。
  • 建物は様々な力を受けている。

① 重力による荷重「鉛直荷重」

② 建物自身の重量「固定荷重」

③ 建物内の家具、人間の重さによる「積載荷重」

④ 地震や強い風など、主に横からかかる力が「水平荷重」

  • 柱は「鉛直荷重」を支えるが、「水平荷重」にはあまり有効に働かない。柱だけでは「横からの力」に耐えられないため、「筋交い」の入った壁が必要となる。
  • 壁には、耐震のために必要な「働く壁」と、耐震上は「働かない壁」がある。「働く壁」は壁の下部と上部がしっかり床や梁に固定されている。「働かない壁」は上下のどちらかが固定されていない壁のこと。一方が固定されていないから、地震による「横からの力」に踏ん張れない。(「働く壁」=耐力壁)
  • 木造住宅は「筋交い」を入れた壁により強さを確保するが、「筋交い」の代わりに合板を使い「強さ」をすることも出来る。「筋交い」は壁の中に対角線に入る斜めの材料で両端を柱等に固定し、「横からの力」で壁が変形するのを防ぐ。筋交いの両端を点で接合し、筋交いという線の材料で横からの力に耐える仕組みとなる。
  • 合板は多くの釘や接着剤を用いて柱に固定する。横からの力は合板という面の材料が受け持つので、線の筋交いより強い。

「重い家」が地震に「強い」家とは限らない

  • 「力」は「加速度」と「質量」で決まる。(f(力)=m(質量)×a(加速度)) 地震を受けた場合、地震による加速度は同じでも、家が重いとその分「受ける」力も大きくなる。
  • 家の構造別に「重さ」と「受ける力」を考えてみる(各階65平米、延床面積130平米の総二階建ての場合)。

RC(鉄筋コンクリート)造  150トン

鉄骨造  60トン

木造   30トン

  • つくりや広さの変わらない3種類の家が地震に見舞われた場合、地震で受ける水平力は家の重量に比例して大きくなるため、それだけの力に耐える構造にしなければならない。これを考えると、阪神淡路大震災で鉄筋コンクリート造りの高速道路やビルが崩落し、木造二階建ての住宅が倒壊しなかったのも理屈には合う。

「材料の特徴を生かしてこそ、家の強さを確保できる」

  • 家に使われる材料としては木、鉄、コンクリートがある。一般に木よりも鉄やコンクリートが強いと思われている。しかし、地震によって受ける力は家の重さに比例する。これを加味すると、耐震面では木材は有利となる。
  • 材料の性能には得手、不得手がある。評価を、「圧縮」「曲げ」「引っ張り」「比熱」「熱伝導率」「比重」「膨張率」で行った場合、木は全ての力にバランスよく抵抗するが、鉄やコンクリートは性能に偏りがある。
  • 住宅建材の木の種類により「強さ」に差があると言われている。檜(ひのき)は強く耐久性も優れた良い材料だが、「強さ」を最優先で求めるなら、必ずしも檜である必要はない。木材は生育環境、柱の製材方法、木目や節の存在により品質に差がある。
  • 構造材としての木材の扱い難さや欠点を補うため工夫したのが合板や集成材。集成材はJASにより強度区分がされており品質が安定している。合板は単板(ベニア)を木目の方向を変えて何枚か重ね合わせたもので、これにより1枚の単板が持つ欠点を補い、且つ縦横どちらの方向に対しても強い材料となっている。これらの集成材や合板は構造計算上もバラつきの少ない材料として扱える。
(木材はバランスの良い性能であることが特徴)

「壁倍率」

  • 建築基準法では「壁の強さ」は5段階に分けている(壁倍率)。

   「壁倍率1」:厚さ15ミリ、幅90ミリの1本の板を柱と柱の間に斜めに入れること

   「壁倍率2」:「壁倍率1」の板がたすき掛けに入る

   「壁倍率3」:厚さ30ミリ、幅90ミリの板がたすき掛けに入る

   「壁倍率4」:厚さ45ミリ、幅90ミリの板がたすき掛けに入る

   「壁倍率5」:厚さ90ミリ、幅90ミリの板がたすき掛けに入る

  • 「壁倍率5」の強度は「壁倍率1」の5倍。「壁倍率5」の壁が1カ所ある家に対し、「壁倍率1」の壁を5つ設置された家が強度的には同等となる(同じ間取りとした場合 あくまでも考え方の説明として)。
  • 筋交いは窓がある部分には入れられない。実際には壁倍率を3や4にした壁を適所に配置することで、耐震性を持たせている。

「広くて明るい家(リビングルームと吹き抜け)」

  • 住宅業界では、「広いリビング」、「大きな窓」、「吹き抜け構造」を夢のマイホームの象徴のようにPRしてきた経緯がある。
  • 但し、耐震性の面では、「広いリビング」「大きな窓」は壁量の減少を示し、「吹き抜け構造」は床の欠損を意味する。壁(耐力壁)や床は耐震面で重要な役割を担っており、これらが少なくなる=耐震性への影響があるということ。
  • このため、「広いリビング」「大きな窓」「吹き抜け」構造の家を作る場合には、より慎重に耐震面の構造についても配慮しておく必要がある。
  • また耐力壁は、バランスよく配置する必要があり、耐力壁の配置に偏りがあると、家が変形しやすくなる。

「総二階」と「下屋付き住宅」では、どっちが地震に強い?

  • 「総二階(1階と2階が同じ面積の家)」と「下屋付き住宅(1階が2階より大きい家)」では、構造的に考えると「総二階」の方が揺れに強い。住宅の場合、地震で受ける力をいかにスムーズに「全体に伝えるか」が大事。地震の力が特定の箇所に過剰にかからない構造にすることが大事。

「接合部が重要」

  • 阪神淡路大震災では「筋交い」の大切さが指摘されたが、大きな被害を受けた家でも「筋交い」が入っていた家がある。そういう家の多くは、筋交いを柱に固定する「接合部」がおざなりになっていた。

「瞬間的に壊れなければ命は助かる」

  • ニューヨークの国際貿易センターがテロ被害で倒壊したが、建物が瞬間的に崩れると命が守れない。仮にあの建物が数時間かけて崩壊していたら、死傷者数はもっと少なかったに違いない。地震における住宅の「壊れ方」についても同じことが言える。
  • 阪神淡路大震災での死者は建物倒壊による圧死が原因の多くを占めているが、逃げる時間がないほどの瞬間的な倒壊はそのまま死に直結する。つまり、壊れるにしてもゆっくり壊れる家こそが「命を守る家」ということになる。
  • 建物は、大地震で構造体が変形しながら壊れるのは仕方がないにしても、ボキッと「瞬間的にこわれることがない」ように設計されている。

「新耐震設計基準」

  • 昭和56年に建築基準法施工例が改定され、新耐震設計基準となった。阪神淡路大震災直後は、倒壊した家の多くが「新耐震設計基準」以前に建てられたと報道されたが、その後の調査で、昭和56年以前の建物でもしっかり建てられたものは残り、56年以降に建てられた家でも壊れたケースがあることが分かった(施工や材料の欠陥への指摘)。
  • 全国にある4400万戸の住宅の内、半数近くが「新耐震設計基準」以前に建てられた住宅で、内1300万戸が十分な耐震性を満たしていないと言われている(2002年時点)。
  • このような中、東海地震の不安を抱える静岡県では、住民自らが木造住宅の耐震性を診断できるようにと冊子にして配ってきた。静岡方式の「わが家の耐震診断法」は、「壁の割合」「地盤と基礎」「建物の形」「壁の配置」「筋交い」などで総合評価する。

「アメリカと日本の違い」

  • アメリカの住宅の耐用年数は100年と言われている。これに対し日本の住宅の耐用年数は30年とも言われている。古い住宅でも構造の専門家が診断して適正な補強をすれば建て替える必要は無いのだが…
  • アメリカには「インスペクター制度」という住宅を適正に評価するシステムがある。これに対し日本の中古住宅に対する品質評価はお粗末… 住宅を診断するシステムを確立すべき。
  • リフォームは「よりよい住みやすさ」を手に入れるために行われるが…「かえって危険な住宅になる場合」もある。これは、リフォームに際し「構造計算を端からやらないケースが少なくない」ことに起因する。既存の住宅と増改築する部分の強さに関する「整合性」が無いことが多い。
  • 最も危険なリフォームは「広さ」を求める場合。既存の住宅の柱や壁を構造計算もせずに取り払って改築する場合。
  • なので、家を建てる際には、どの壁が「耐力壁」なのかを確認できず図面を手に入れておくことが必要。

「(この本について)」

木造住宅の耐震技術の専門家とジャーナリストの方との対談が挟まれた本です。木造住宅の家の構造、特に耐震面、耐震強度について詳しく書かれてあります。地震はいつ、どこに起こるか誰にも分からず、誰にでも起こる可能性のある自然災害です。であれば家の耐震性についてもきちんと考えた上で家を建てるべきであり、この本はその耐震性について学べる本だと思います。住宅関連の書籍等を見ても、あまりこの辺の詳しい構造についてまで書かれてあるものは少なく、参考になると思います。

また、ジャーナリストの視点から、今の住宅産業の問題点も提起されています。

このブログでは、本を読んで参考になる所を幾つかピックアップしたものですが、読む人によりどこが重要なのか?の感じ方は違いますので、私の書いた内容はあまり参考にならないかも知れませんが、とくに木造住宅の耐震面について興味を持たれた方は、ぜひ書籍を取って目を通されてみてください(但し、現在新刊では入手不可のようです。中古であれば通販にて購入できる可能性があります)。

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