2018年7月20日 第4刷発行
発行所 ダイヤモンド社
著者 柿内和徳・川瀬大志(ハイアス・アンド・カンパニー 元取締役)
ブックオフに不要な本を売りに行った際、査定の待ち時間に店内で見つけた本です。定価は1,500円ですが、300円で購入しました。
“ハイアス・アンド・カンパニー”をネットで調べると、HPがあり、不動産関連のコンサルティングを行っている会社のようです。筆者二人はいずれも、この会社の設立メンバーにて取締役に就任していたようです(HPを見る限り、現在は二人の名前は見当たらない)。
二人の経歴は元、経営コンサルティングのようで、その立場から不動産関連のコンサルティングを行った立場から書かれた書籍となるようです。「賢い家づくり勉強会」を開催し、「家づくりの際に大切にすべきこと」について考えて頂くための情報発信をされていたようです。この本は、その勉強会の内容をまとめたものとなります。
この本に書かれている内容で、私が気になった点をピックアップしてみました。
「はじめに」
- 住宅購入者を対象にしたアンケートにて、実に7割近くのマイホーム購入者が「後悔」をしている。→ 厳密には、「マイホーム購入前、家づくりに関する勉強会があったら参加したかったか?」という設問(調査)に対しての参加希望者の割合。
- この原因として、買う側の知識不足がある。また住宅提供者側の、「十分に情報提供を行わないまま購入意思決定させてしまう悪習」がある。
- 日本で壊された住宅の「建築後、壊されるまでの年数」は平均30年程度と短い。これは、「長きにわたって使うためにはどう建てれば良いか? を理解しないまま建ててしまい、結局長く使えない住宅となったため」と推察される。
「いい家とはどんな家?」
- 住宅購入希望者にこの質問をした場合、いろんな答えが返ってくる。どの答えもいい家の条件には違い無いが、どれも絶対的な正解と言えるものでもない。殆どの人は、家の購入について経験も予備知識もない素人であるため、それはやむを得ないこと。
- 野菜や魚ならスーパーに通う内に見分ける知識が付いてくる。自動車購入時はスペックを比較したり試乗したりして、比較検討が出来る。しかし家の買い方はそれとは全く違う。
- 豪華なパンフレットにつられ、売り手の一方的な説明を信じ、建材の品質を確かめもせず、適正価格を判断する材料もないまま契約し、何より大事な住み心地は実際に住んでみるまで分からない… 恐らく人生に一度の最高額の買い物をするのに、これっておかしいと思いませんか? 今の家の売り方、買い方にはおかしな部分がたくさんあるが、その最たるものが売り手と買い手との間に、商品について大きな情報格差があること。そのことに気付かないまま損な家を買わされている人が多い。
「米英と大きく異なる日本の住宅事情」
- 2015年 国交省の住宅関連データより、日本の住宅寿命は32年(平均)。アメリカ66年、イギリスは80年となっている。
- また、中古住宅の流通割合について、日本は15%程度なのに対し、アメリカは83%、イギリスは88%となっている。つまり、日本は新築が主流なのに対し、米英は基本、中古住宅の流通が主となっている。
- この理由として、大きく国の政策が関わっている。元々、高度経済成長期に、持ち家、家の建築が奨励された。住宅市場の動きが経済全体の指標になっていることで明らかなように、住宅需要の喚起は経済拡大につながる。そのため家の寿命が短い方が当時の国の政策としても都合が良かった。
- また日本では中古住宅の売買が少ないことも住宅寿命が短い原因となっている。日本の住宅マーケットでは常に新築物件が求められている。
「間違った金銭感覚と家の質」
- 家の購入に関し、かかる費用は2種類。イニシャルコストとランニングコスト。住宅の購入時にはイニシャルコストばかりに目がいき、ラインニングコストに注意が向かない場合が多い。
- 家の品質にバラつきがある とは普通は考えないが、品質の違いによりランニングコストにも違いが出る。例えば家の断熱性能、冷暖房効率によっても光熱費に差が出る。つまり購入時にはランニングコストにも目を向ける必要がある。
- 自動車購入時には、初期費用が高くても燃費のよいハイブリッド車や電気自動車を選択肢に入れることが一般的になってきた。住宅選びには、この点が意識されることは少ない。これは消費者側に情報や知識が足りていないのが大きな理由と思われる。
「家の建て方による5つの種類」
種類 | 主な購入者層 |
分譲戸建て住宅(建売) | 簡便性志向の人 |
ハウスメーカー | ブランド志向の人 |
工務店ローコスト住宅 | 初期費用優先志向の人 |
工務店自由設計 | こだわりとコストのバランス志向の人 |
設計事務所オーダー住宅 | 徹底的なこだわり志向の人 |
- 知名度やブランドを優先して住宅会社を選ぶ背景には、多くの消費者が技術的な基準で選択することができないという実情がある。
- スーツを買うには、有名ブランドでなくても、腕の確かな仕立て屋が街にはたくさんいる。家を建てる工務店も同じで、無名でも規模が小さくても、優れた技術を持つ業者はたくさんいる。
- 住宅業界では大手の会社も、全体的なシェアは2割程度。住宅購入者の8割は中小の住宅会社にて建てている。つまり消費者自身も技術的な基準、いわば「見る目」を持たなければ、ほとんどの人は「いい家」を手に入れることができない。
- 完成した家は、どこの誰が建てた家なのか区別はつかない。大手ハウスメーカーの家に住んでいることがステータスになるわけではない。ならばブランド料に払うお金を省エネのための設備など、家の性能を上げる費用に廻すべき。
「いい家とは?(筆者の考える)」
いい家とは、資産価値の高い家と考えている。資産価値の高い家とは?
① 家の将来価値を決定する耐久性と耐震性があること
② 家の現在価値を決定するデザインと性能があること
③ 家の将来価値を残すためのメンテナンス費用が抑えられること
これらの条件の中で最も重視したいのは省エネ性能。断熱性、気密性、換気の性能に優れていること。この3つを備えている家は、快適な住み心地をもたらしてくれる。だからこそ、家を建てる際はこれらの性能を高める対策をとっておくべき。
「(家の性能数値)」
(この本には、これらの数値の説明と、これに関する記事が書かれている)
- ZEH(ネットゼロエネルギーハウス):「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」
- LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅):「長寿命で且つ一層のCO2削減を目標とし、住宅の建設時、運用(居住)時、廃棄までの一生涯、つまり住宅のライフサイクルトータルでCO2の収支をマイナスにする住宅のこと」
- Q値(熱損失係数):「どれくらい熱が逃げにくい家なのか」がひと目でわかる数値。計算式は、 = (各部の熱損失量の合計 + 換気による熱損失量の合計) / 延べ床面積
- Ua値(外皮平均熱貫流値):「どれくらい熱量が家の外に逃げやすいのか」を表す数値。Ua値 = (各部の熱損失量の合計) / 延べ外皮面積
- Q値、Ua値はいずれも計算値となる。これらの数字は比較的メジャーな存在。例えば自動車を購入する場合、ディーラーでその車の燃費を尋ねて、答えられない営業マンはまずいない。住宅会社に行って、「御社の建てている家の平均Ua値はどれくらいですか?」と聞いて、答えられないような住宅会社は信用してはダメ。
「性能差を生む窓ガラス、サッシ」
- 窓枠の断熱性能が低いのは、現在の先進国では恐らく日本でしか使われていないアルミサッシが大きな元凶。アルミは加工しやすく錆びにくく、耐久性に優れて安価だが…断熱性能が最悪…。
- 樹脂サッシは高いコストパフォーマンスで断熱性能を発揮する。アルミサッシよりは値段は少し高くなる。サッシの性能でUa値は大きく変わる。
- 窓ガラスはその素材そのものが断熱性能に劣る。窓はペアガラス(複層)にするだけで断熱効果が高まる。さらにペアガラスの間にガスを入れたり真空層を挟んでいる製品があり、さらに性能が高い。最近ではトリプルガラスの窓も出てきている。
- 「窓ガラスはあとから取り換えられる」という思い込みがあるとすれば、それは間違い。窓は断熱以外に防水という大事な役割がある。窓とフレームの防水処理は大事だが、リフォーム時に壁にはめ込んだフレームを取り換え、隙間をきっちり埋めて防水処理を行うのは難易度の高い工事となる。最初から投資しておくことが肝要。
「断熱材について」
- 断熱性能は数値だけでは測れない。施工精度も重要。室内と外部との余地(隙間)をできるだけ無くすのが断熱のポイント。このような作業をリフォームで行うのは難しく、新築時に良い断熱工事をしておくことが大事。
- 断熱材により施工精度に差がある。現在多用されているグラスファイバーは袋に詰められた状態で施工されることが多い。この場合、隅っこの部分やコンセントボックスの周りは、形状的に隙間ができやすい。
- これに対し、ウレタンパネルや、後から壁内に吹き込むセルロースファイバーは隙間が出来にくい、あるいは外断熱の場合も隙間が出来にくく、性能的には有利。但し、ウレタンはパネルと発泡ウレタンがあり、性能が異なる。パネルの方が性能が高い。またセルロースファイバーもJIS品でないものが出回っており、JIS品であることを確認する必要がある。いずれにしろ中途半端な断熱は家の寿命を縮めるので、家づくりの前にしっかり確認しておく必要がある。
「断熱性のカギは気密性にあり」
- 施工時に生まれる隙間が断熱性を損なうため、隙間のない家づくりが重要となる。その目安となるのが気密性。気密性の高い住宅は隙間からの熱損失が無く保温性に優れる。
- C値(隙間相当面積)とは、気密性を表す数値となる。多くの専門家がC値は1.0以下が必須。C値とは、(家全体の隙間の合計(平方cm)÷延べ床面積(平方m))にて計算される。
- このC値という基準は、2009年の省エネ基準見直し時に撤廃されてしまった。Q値とUa値は、設計上からの計算値だが、C値は実測値となる。つまり施工精度を測る数値ともいえる。このため、C値は重要であることを強調したい。
- C値は実際の現場にて測定する。内装工事終了時点、壁紙が貼られる前に測定する。費用は概ね5万円以内で測定可能。測定方法は家の開口部を塞いで、室内の空気を強制的に戸外に排出、この時の内外の気圧差より計測する。
- 壁紙が貼られ、内装工事の仕上げが終わると、工事をやり直すことができない。内装工事の仕上げ前にC値を測定し、結果が悪ければC値の改善工事をする等を契約前に確認しておく必要がある。
「地盤は大切な要素」
- 建築後に住宅に不具合が生じるとき、その原因の大半は地盤にあると言われる。外壁や内壁に亀裂が出来る、ドアや窓の歪み、これらは多くの場合、「不同沈下」と呼ばれる現象により引き起こされる。軟弱な地盤の上に建てた家は、それだけで耐久性に問題を抱えた家と言え、時と共に不同沈下の影響を受ける事となる。
- 家を建てる前は、必ず事前に地盤調査を行う必要がある。それで問題が見つかった場合は、適切な地盤改良工事を施し、地盤を強化する。
- 全国平均では、およそ30%の土地に地盤改良工事が必要だとのデータがある。地盤は地域によって大きな差があり、四国地方は山地が多くて概ね地盤が硬く、平均5%と言われている。これに対し新潟市は、「潟」の字が入っているだけあり、ほぼ100%。
- 地盤調査結果を説明しない住宅会社もある。過去に実施したアンケートでは、住宅会社から受けた地盤に関する説明内容について、説明があったと答えた人は36%に留まった。
- 2000年に住宅の品確法が施工され、建築後10年は地盤が原因で事故が発生した場合、住宅会社が責任を負うとの法律が出来た。しかし地盤調査と地盤改良工事には、様々な問題が起こっているのが実態。
- 地盤改良工事を行った場合は、再調査を実施し効果の検証が必要だが、実際には実施されていなことも多い。
- 地盤改良工事にて地中に埋めたセメントや杭などの埋没物は、産業廃棄物扱いとなるため、埋没物のある土地は、売るときに評価が下がる。こういった説明は事前にされることが少ないためトラブルの原因となることもあり、知っておくべき事実となる。
「住宅会社の姿勢を見極める」
- 些細なことでも丁寧な説明を心掛ける住宅会社は良い会社と言える。説明姿勢はその会社の責任感を測る試験紙のようなもの。だからこそ消費者からも積極的に質問することで、住宅会社の姿勢がわかる。きちんと説明してくれる姿勢のある会社を選ぶ。
- 優良な住宅会社を選ぶモノサシとは何か? 一言で言えば「質問すること」。都合の良いセールストークにつられることなく、聞くべきポイントを尋ね、答えを求める事。このヒヤリングである程度、住宅会社の善し悪しを測ることは出来る。
- 良質なサービスを提供しようと思う会社は、顧客からリクエストを受けた場合、いくら余分にかかるか正確に伝える姿勢がある。残念ながら知識がないためヒヤリングの段階で予算オーバーを即座に計算できない営業マンも少なくない。
- 工期の長い会社もお勧め出来ない。一般の木造2階建ての場合、起工から竣工まで、3か月以内。半年以上かかる場合、必ずムダがある。工期が長くなればコストがかかる。工期の長さは仕事の丁寧さとは関係無い。
「断熱は基礎から行うと効率が上がる」
- 床下の空間を完全に塞ぐのが基礎断熱。床下に断熱材を施工せず、建物の外周に面した基礎立ち上がりに板状の断熱材を施工し、床下換気口を設けない工法のこと。これにより床下に外気が入らず、床板の下の空間も室内とつながる空間となる設計。
- ベタ基礎のコンクリートは蓄熱性が高いため、冷暖房効率が上がる。また地熱エネルギーの活用ともなる。地下数メートルの温度は、年間を通じて13~15℃。コンクリートを通じ、夏は冷気、冬は暖気を床から取り入れることが出来る。
- 欧米では昔から基礎断熱がメインとなっている。
「構造計算」
- 以前、マンションにて構造計算を偽装した耐震偽装事件が世間を賑わせたことで、「構造計算」という言葉は広く認知されるようになった。
- 一般住宅である木造2階建てについては、構造計算は必須となっていない。このため、大半の住宅では構造計算はされていない。
- 実際に実施する場合、費用はある程度発生する。この辺は工務店と相談する価値はある。構造計算にかかる説明についても丁寧な会社は信用できる。
「提案できない設計士」
- ダメな設計士はダメな営業マンと同様、顧客のリクエストに応えることにのみ注力する。「リビングは何畳?」、「子供部屋は何部屋にする?」などと、必要性、数をどうするか、大きさは等の質問ばかりの設計士がいます。細かく顧客の希望をうかがい、自分はそれに従うだけ。設計士の目から見た家の根幹にかかる提案が無い。
- 優れた設計士は大きさや数ではなく、これから建てる家で家族がどのように過ごしたいか?を丁寧に聞く。つまり「暮らし」の作り方を聞いてくれる。
- このような重要なヒヤリング工程を営業マンが実施するような会社では、顧客の本当の意思や要望が届かない可能性がある。
- 家の設計を指して「デザインする」とよく言うが、デザインという言葉の語源は、「問題解決」という意味。その家族にとって理想的な住まいをイメージし、それを実現するに際して障害となりそうなものを排除していき、機能性と見た目を両立させた住宅に仕上げる、これが本来あるべき住宅のデザイン。大切なマイホームの設計を依頼するのであれば、しっかりデザインできる設計士に任せたいもの。
「メンテナンスの記録」
- 宅建業法の改正で、住宅の履歴は重要な説明事項と定められた。中古住宅の取引において、住宅履歴がある場合はきちんと入れるように決められた。この先、築年数にかかわらず、図面も家歴もメンテナンス記録も残っていない家は、評価が低くなる。
- 住宅履歴書の内容は、以下のような内容が記録されている。
① 調査関係書類(地盤調査報告書)
② 設計図書
③ 確認申請書類、性能保証、、性能表示関連書類
④ 施工図面、施工関係書類
⑤ 引渡し書類、各種保証書など
⑥ 維持保全改修記録(日常的な維持保全記録、修繕改修工事図書、写真、記録など)
「住宅資金について」
- 住宅資金はまず「総額」を考える事から始める。総予算-建物予算=土地予算。これが基本的な家づくりの公式。この順番を守らなければ、建物で予算を調整することになり、往々にして性能が犠牲になった家を建てることになる。
- 住宅では見えない部分にお金をかけることが大切。柱、壁の中(断熱)、基礎、屋根、地盤が家族の命と健康を守る。そこにかけるお金を妥協してはいけない。キッチンや証明などの見栄えは気になるが、それらの設備はあとからでも取り換えることは出来る。
- 借り入れ可能な金額と、返済可能な金額は異なる。自分の返済可能な金額を知り、その範囲内で家を建てる必要がある。金融機関は熱心にローンを貸そうとする。しかし借り手側は自分の「返済可能な金額」が良く分かっていない人が多い。言い換えれば自分の家計が把握できていない人が多い。
~本を読んだ感想~
この手の本はあくまでも知識や情報を深めるためのものと割り切る必要があります。
特に家づくりに関する本は、真反対の主張が普通に混在しています。
内容を見て、確かに直接家づくりに関わっていない、コンサルティングの立場からの本なのかなあと感じました。数字、性能数字は確かに大事なのですが、そこに注力するのもどうなのかな? とは思いました。ただ知識として、住宅履歴書に関する内容、断熱性能の表す数字、床下断熱については勉強になりました。
私の記事は、本を読んで自分なりに参考になった箇所の抜粋であり、以外にも参考となる内容が記載されていますので、興味を持たれた方は一度、書籍を手に取って目を通してください。
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