著者 斎藤正臣(株式会社緑建設 社長)
発行元 株式会社幻冬舎メディアコンサルティング
2017年2月27日 第一刷発行
筆者は、神奈川県の工務店(緑建設)の社長。外断熱工法の木造注文住宅に徹底してこだわる。家は「売る」ものではなく、お客様のこだわりを叶えるために「造る」ものという姿勢を貫いている。
「家づくりを考える前に」
- 思い通りの仕上がりではなかったと感じる方は残念ながら少なからずいる。親身でない会社、悪質な会社に当たった場合、「いい家」を建てる事自体難しい。
- 家を建てた後、満足いかない結果だからと施工会社を一方的に避難しても仕方がない。「だまされる方も悪い」。不満や失敗に終わらせないためには、最低限必要な家づくりの知識を身につけることが重要。
- 通常、施工会社は知識のある客よりも「業者任せ」の客を好む。しかし施工会社と客は対等の関係であるべきだと筆者は考える。このためにも、後悔しないためにも家づくりの知識を持つべき。
「いい家とは?」
- 人によって「理想の家」というのは千差万別だが、家づくりを考える時、間取りやデザインからイメージする方は多い。
- スタイルやデザインにかかわらず「いい家」というものがある。「家族が健康に暮らせる」「住み心地がいい」「丈夫で長持ち」等が考えられる。いい家を建てるには、住宅の性能にも目を向ける必要がある。
「建売住宅と注文住宅の違い」
- 建売住宅:すべて完成してから販売する場合と、完成する前に販売する「青田売り」がある。完成してから販売する場合は、割安ではあるが工事の過程を見ることが出来ないので職人の技術や材料の品質をチェックすることはできない。
- 建売住宅と似て非なるものとして、「建築条件付き土地」がある。これは所有者により予め施工会社が決められている土地のこと。一定期間内に建築工事の請負契約が成立しなければ、土地の契約自体も無効となる。こちらは注文住宅のように基本的には自分の希望をプランに反映させることができるが、施工会社が決まっているため、その会社との相性が悪かった場合、満足する家が建てられない。
- 注文住宅:土地と建物を別々に契約し、住宅会社と相談しながら作るオーダーメイド住宅のこと。中には注文住宅とうたっておきながら、実際は建売住宅とかわらないような家づくりもある。本来、注文住宅は全てオーダーメイドだが、この場合なぜか仕様や設備を決められた規格の中から選ぶ形式もあり、仕様を変更すると追加料金が発生する。
- 住宅について特に希望やこだわりが無い場合、住宅会社が一から十まで仕様を決めてくれた方が楽という考えもあるが、これから何十年も住む家なのに、それで良いのだろうか? 素人だから分からないと諦めていないか? こだわりがないのは勉強、調査不足によるものではないか?
「工務店の違い」
- 工務店の中には、注文住宅と建売住宅の両方を手掛けているところがある。
- 「元請け」「下請け」の違いもある。世の中には、元請けで自社の家づくりを行いながら、他社の下請けとして家を作る工務店がある。
- 家づくりを、建売や大手ハウスメーカーの下請けも手掛ける工務店に依頼するか、注文住宅専門の工務店に依頼するか? というのも業者の選択には考慮されるべき。
「ライフステージの変化を考える」
- 通勤、子育て等、家を建てる時は時点の生活の利便性を第一に考える場合が多い。しかしライフステージは変化する。子育て、親との同居、子供の独立、老後の生活、その家にすむ人の人数も変わる。
- 自分の人生のそれぞれの段階で、どこに住み、どのような間取りで生活するのか、シュミレーションすべき。絶対に譲れないと考えていた条件が、実は短期間しか必要のない事なのかもしれない。反対に今は必要のないものでも、長い目で見た場合に生活に欠かせないものがあるかもしれない。どのライフステージにおいても快適に暮らせるような家を建てるべき。
- これから結婚する意志のある方は、家を建てるのは待つべき。人生何が起こるか分からない。将来の人生設計が大きく変化する可能性のあるうちは、家を建てるタイミングは慎重になるべき。
- 例えば家族に介護が必要になった時、今の玄関や洗面所では車いすが入らなかったり、廊下の幅を広げたりと、大掛かりな改築が発生することがある。トイレ一つにしてもドアの正面に便器があると、身体の向きを180度回転させる必要があるが、要介護となった際、使用者の負担は大きくなる。横向きに便器が設置されていれば、方向転換せず、身体をズラすだけで便器に腰掛けることができる。いつか必要になるものなら、最初からバリアフリーに対応できるような間取りにしておけば、将来的に余計な出費も抑えられる。
「地震対策」
- 1981年以降の新耐震設計基準で作られた住宅であれば、震度6までの揺れには耐えられると言われているが、日本はいつ大地震が起こってもおかしくない状況にある。住宅における耐震構造は大きく分けて3つ。
- 耐震構造:柱や梁、土台などの構造物同士を金具などでがっちりと固定、壁を筋交いや合板などで補強し、建物自体の強度を高める。地震のエネルギーは減衰されないので大きく揺れ、建物自体へのダメージも大きくなる。
- 制震構造:建物の壁の中に、揺れや衝撃を吸収する制震ダンパー等の装置をつけ、建物にかかるエネルギーを抑えることを目的としたもの。
- 免震構造:建物と地盤との間に鋼球や積層ゴム等の免震装置を設置し、揺れを伝えにくくする仕組み。建物にかかる衝撃は最小限に抑えられるが、地盤改良が余計にかかったり、土地にある程度の広さが無いと適用できなかったり、またコストが高い。また工法によっては風の影響を受ける場合もある。
- 地震自体の大きさと建物の揺れは必ずしも比例しない。その土地の地盤の硬さ、建物自体の硬さにより共振しやすい地震の周期は異なる。共振する周期の地震が発生した場合に被害が大きくなる。東日本大震災の時、新宿の超高層ビルは長周期地震動と共振して大きく揺れたが、首都圏の一般住宅は、影響を殆ど受けなかった。
「長期優良住宅」
- 「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が2009年に施行された。住宅を長期に使用することで、住宅解体に伴う廃棄物を減らし環境負荷を抑え、建て替えにかかるコストを抑えることで生活を豊かにすることを目的とした法律。
- 長期優良住宅と認定されれば、ローンや税制面での優遇を受けられる。新築木造戸建てにおいては、「劣化対策」「維持管理、更新の容易性」「耐震性」「省エネ」「居住環境」「住戸面積制限」「維持保全計画」といった7つの基準を満たす必要がある。
- 長期優良住宅の認定には、申請が必要にて、構造計算や申請費で、20~30万円の費用が必要。及び基準に適合させるために場合によっては必要な工事費用が発生する。
「ZEH」「スマートハウス」
- ZEHとは、Net Zero Energy Houseの略。消費するエネルギーが年間でゼロになる住宅のこと。使用エネルギーを低減した上で、必要量を自ら賄えるようにする。エネルギーを生み出すために一般的に用いられているのは太陽光発電やエネファームで、住宅建設時に設ける。
- スマートハウス:電力の見える化を目指し、家の中のどの部分でどれくらいの電気が使われているかを可視化することにより無駄遣いを減らす。しかし導入には高コストを要す。
- いずれにしろ、まず家の断熱性能を上げないと省エネにはならず本末転倒となる。
「光と風」
- 快適な家の条件として欠かせないのは、光と風。これらは自然からの恵みであり、生かすも殺すも家の作り方次第。光と風を上手に取り込むことが出来れば、五感で感じる心地よさはもちろんのこと、光熱費にとってもプラスとなる。
- 風にひつようなものは、「入口」と「出口」出口が無ければ、入り口の窓を開けても家の中には風は入らない。入ってきた外気を流すことで風が生まれ快適さが生まれる。風の通り道を設けることが家の設計において重要。
- 光に関しては、立地条件や周囲の環境、季節や時間帯により差し込む光の量が変わる。それに応じて窓の位置を設計することが大切。
「家づくりと並行して家具もオーダーする」
- 自分たちの希望をかたちにして作ることが出来るのが注文住宅の良さ。細部にまでこだわる楽しさは他には代えがたいもの。
- せっかく完成したこだわりの家に、既成の家具ではもったいない場面もある。無垢材の床に合板で作られた棚やテーブルがあると、見劣りする場合もある。家のテイストに合わせた家具を探すのもなかなか難しい。
- 工務店に依頼して、家の建築に使う素材を使った「造作家具」をオーダーするという方法もある。造作家具のメリットは、インテリアのバランス以外に、設計に組み込まれているので、天井や壁にぴったりと設置することが出来る。
「まずは自分で勉強しよう」
- 当たり前だが、家づくりは自己責任。業者探しに入る前に、工法や素材、設備の種類、契約の流れ、ローンや税金、関連法規等、家づくりについて事前に調べておいた方が良い。
- 不勉強のまま綺麗な住宅展示場に行き、人当たりの良い営業マンに話を聞いている内に「良く分からないから、任せるわ」と深く考えずに契約してしまう… 有名な会社だから変な家は作らないだろうという思い込み、これは良く勉強していない人が陥りやすいパターン。
- 何千万という大金を投じて何十年も住む家を建てる、人生で最も高い買い物をするときに、全てを人任せにしてはダメ。
- 不勉強だと相手に言われたことの真偽を見極めることが出来ず、ネームバリューや営業マンの人柄だけで会社を判断してしまうことが起こる。あくまでも住宅を作るのは職人、営業マンで会社を選ぶのは危険でしかない。
- 後悔しないために事前に知識を身につける、本を読み、ネットで検索し、たくさんの建築現場に足を運び、いろんな人から話を聞く。過去に家を建てた人の経験談等も今はネットで幅広く目にすることが出来る。そうしているうちに、たとえ素人でも分からないなりに見極める感覚のようなものが掴めてくる。
「先に相手に話をさせる」
- 住宅会社に家づくりの相談に行った際、「私が造りたい家はこういうもの」ということを相手に最初に話してはダメ。まずは先方のこだわりをなるべく聞き出す。そうしないと、実績が無いにもかかわらず「うちの会社もそれをやっている」と都合よく話を合わせてくることがある。そうすると「相性が良い」と勘違いをして契約し、実際にはその工法を初めて施工するということも起こりえる。
- まずはその会社のこだわりを聞く。その会社の姿勢が分かるような質問をする。「工法は?」「断熱工法は?」等。その会社とあなたのこだわりが合っていたら、初めて見積もりを取り、他社との比較検討を始める。
- こだわりが合っても、なんとなくフィーリングが合わない会社は避けた方が無難。感覚的なところが合わないと、絶対に後から何かしらの問題が起こる。
「営業マンが来るのはノルマのため」
- 住宅展示場を見に行った際、親切に対応してくれた営業マン、後日連絡が来たり家に来たりと、気にかけてくれる。熱心で誠実だからこの会社と契約しよう… 日本人は情に弱いのでそういう方も多いと思うが… 一生に一度の買い物を情で決めてはダメ。
- 考える時間を与えないで次々と条件を提示して契約に持って行こうとする営業マンには注意が必要。「いつまでに返事を」というセリフが出てきたら要注意。本来、自分の家づくりを考えるのに時間の制約は無いはず。
- 営業マンが現場を知っているかどうかも重要。知識もないのに適当な回答をする営業マンはトラブルのもと。また営業マンとフィーリングが合ったとしても、社長と合わない場合は要検討した方が良い。契約する前に一度はその会社の社長と会って話をしてみた方が良い。
「保証年数のカラクリ」
- 「〇十年保証」を掲げる住宅会社が多くなった。住宅は何十年も住んでいると、屋根や外壁、基礎や構造材等、あちこちに不具合が出てくるもの。では、この保証期間がながいほど、サービスの良い会社なのか?
- この保証期間は、家の部位や内容により、5年や10年と異なる。ある部位の保証期間が切れる時期にメンテナンスを依頼しないと、各部位の保証期間はけいぞくするが、「〇十年保証」という大もとの保証は切れてしまうケースが殆ど。例えばシロアリの害に対する保証が5年で切れた場合、以降の修繕には費用が発生する。その際に施工費の安い他社に依頼すると、屋根や外壁といった部位の保証は継続しているが、「〇十年保証」は時点で終了してしまう。無償で「〇十年保証」してくれるわけではなく、どのような見積額でもその会社で修繕を行わなければならないための仕組み。
- ある程度の期間が経過したら、点検や修理は有償になる。保証期間が長いからという理由で住宅会社を選ぶのはあまり意味が無い。アフターサービスは重要だが、期間が長ければ良いというわけではなく、サービスの内容を細かく確認すべき。
「棟数が多いと安心なのか?」
- 多くの注文を受注していれば、その会社は安心、信用できるということなのか?
- 建築現場が増えれば増えるほど、関わる職人の数は増える。大量の職人を導入すれば、その中で明らかに技術の差が生まれ、上手な職人だけの集団をつくることは不可能となる。同じ会社が造った家でも、ある人の家は素晴らしい出来で、ある人の家には欠陥があるということが起こりうる。年間の建築棟数の多い会社に、口コミや評価にバラつきが出るのはそのため。
- 棟数の多少が建てる家の善し悪しになるわけではないが、棟数が少なければ品質のバラつきは少なくなる。
- いい家を建てるためには、技術のある職人を常に抱えている会社を選ぶ必要がある。
「知り合いの紹介の会社がよい会社とは限らない」
- 友人や知人の口コミは信憑性が高く感じられる。しかし、家づくりにおいては「知人の勧め」で業者を選ぶのは待つべき。
- 実際に家を建てた人の意見としても、その人とその会社との相性が良く、満足できる家が出来たからといって、あなたとその会社との相性が合うとは限らない。また、その知人とあなたとで、家づくりに求めるものが同じとも限らない。
- 万一、紹介された会社に頼んで納得できなかった場合、信頼関係にひびが入る可能性もある。知人のお勧めはあくまでも意見のひとつとして参考にする程度にする。無論、検討を重ねた結果、自分にも相性が合う会社ならば問題は無い。
「建築現場チェックポイント」
- 現場の防犯、安全対策:建築中の家(敷地と道路との境)に仮設のガードフェンスやアコーディオンゲートが設置してあるか? ゲートは施錠してあるか? 部外者が簡単に敷地に入れる環境は気持ちの良いものでは無い。建築資材や道具類の盗難防止や不審者の侵入防止が図られているか?
- 建築現場にはまめに足を運ぶ:工事期間中はなるべく建築現場に足を運ぶ。見るべきことは、自分の希望の仕様通りになっているかの確認。毎日は無理でも、週に1回は足を運ぶ。現場監督との打ち合わせも、現場で行うとスムース。疑問があれば、その場で現場監督や職人に聞く。但し、仕様変更依頼は職人ではなく現場監督に依頼する。職人は会社の指示で仕事をしているので、会社が知らなかったという状況を生まないため。
- (チェックポイントとしては20個の項目が記載されています。そのうちの2つを抜粋)
~ この本を読んで ~
私なりに参考になったと思われる部分を抜粋して簡略に記載してみました。
「だまされる方も悪い」とは、その通りだと思います。だまされないために、より良い家づくりを目指すために、知識を入れ勉強することは、家づくりには不可欠だと同感します。
「ライフステージの変化」については、私も自分の家づくりにおいては、見落としていた所でした… また私も、建築棟数の多い工務店よりも少ない方を選んで家を建てています。
この本は、2021.2.7時点で、販売されており入手可能です。
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