私は50歳手前で家を建てました。家を建てることが決まって着工までの間に考えていたことは、①それなりの性能の家、②ランニングコストの少ない家、③出来るだけ安く ということでした。ランニングコストについては、この先に発生するかどうか? なので、採用した工法等が妥当だったかは分かりませんが、性能と費用については満足しています。
現在、年齢的には50代半ばです。両親は健在ですが、足腰も弱くなり、実家には手すりが各所に増設されています。「明日はわが身」ではありませんが、自分たちもいずれ、老いて行きます。その時にどういう家が住みやすいのだろうと、ふと考えることがあります。
身体が満足に動かせなくなってから、必要な箇所はリフォーム等をせざるを得ないのですが、家を建てる設計段階から、老後を見据えておくことも大事なのかな? と思います。
何よりトータルで見ると、その方が費用を抑えられるのではないかとも考えられるからです。
「バリヤフリー」
この言葉は身の回りにあふれていますが、元々は建築用語で、障害のある人が生活上障壁となるものを除去する意味で使用されていたようです。家づくりにかかるバリヤフリーは、この元々の建築用語そのものの意味となります。
尚、現在はバリヤフリーの意味は広くなっており、全ての人にとって社会参加する上での物理的、社会的、制度的、心理的な障壁の除去という意味で用いられることが多いようです。ネットで調べても、それぞれの意味の内容の記事があります。
ネットで検索して調べる場合には、やはり「バリヤフリー」で調べる方が、関連記事が得やすいのだと思います。
「ワンフロア生活」
将来、足腰が衰えてきたときにまず辛くなるのが、階段の上り下りです。
このため老後の生活を考えると、平屋の家の方が適しています。と言っても、平屋建ての方が土地の必要面積が多くなるため、費用的には不利になることが多いように思います。
私の家内も平屋を希望していましたが… 土地の面積が不充分であきらめた経緯があります。ただ、可能なら平屋造りは老後にやさしい家にて、お勧めではあります。
2階建ての家の場合は、将来、1階だけのワンフロアで生活できる設計にしておくと、リフォーム等の費用を削減できます。
私の家は1階にLDKと、6畳、4畳半の和室、バス、トイレがあります。2階は家族4人それぞれの個室があります。子供が家を出た後、家内と二人の老後には、和室を寝室にして、ほぼ1階だけで生活することも可能です。
家の設計時には、この辺を考慮した設計にしておく方が将来安心です。
「寝室とトイレ」
前述の続きですが、2階建てで2階に寝室を配する場合でも、生来的には寝場所を1階に移動できるプランも考えておきましょう。リビングを広めの設計にしておき、生来的にリビングを寝室に変える(間仕切りを入れる等)。又は応接室等を1階に設けるのであれば、そこを将来、寝室に転用する等。
ワンフロアでの老後生活において、寝室とトイレの距離は大事です。出来るだけ近くになるように考えましょう。この事は、ネットでも書籍でも、よく目にする内容です。
できれば、寝室、浴室、トイレ、洗面所が近い方が老後生活んには便利です。
水回りの設備は配管工事等があるため、後から移設するのは大変です。将来的なワンフロア生活を見据えるならば、水回りは1階に作っておくほうが無難だと思います。
「廊下を無くす」
私の家も、玄関を入ると廊下が奥に伸びています。廊下の右側にバス、トイレ、階段、物置があり、左側がLDK、奥に和室です。
家づくりの基本寸法は3尺91cmにて、廊下の幅も91cmです。通路としては十分な広さですが、なんとなく「狭いなあ」と感じる…
それは置いておいて、家の設計指南書とかには、「廊下を無くす」というのも良く書かれています。廊下スペースは通路としての利用だけなので、使用頻度が少なく、であればその分をLDK等にした方が有効利用できるという考え方です。
バリヤフリーにおいても廊下が無い方が利便性が高いようです。玄関を入るとリビングで、リビングからトイレ、浴室にアクセスできると、ドアの開閉も1枚で済み、その分移動がスムースになります。
「ドアより引き戸」
部屋の出入り口は、ドアより引き戸の方が身体にも負担が少ないようです。このため、バリヤフリーの家にも適していると言われています。
ドアは開け閉めにスペースを取り、開閉に伴い身体を引いたりよけたりという動作があります。引き戸はスペースも取らず、動作も楽です。
また引き戸は開けっ放しでも邪魔にならず、中途半端に開けておくことも可能です。
引き戸は、「空間をゆるやかにつなげる」特性があると言われています。板戸にガラスや樹脂のはめ込みがあるものであれば、引き戸越しに光も入ります。
私の家の1階部分は、玄関以外は引き戸になっています。廊下が狭いのでドアだと開閉し難いかな?との考えで引き戸にしていたのですが、老後を考えると、引き戸で良かったなあと思います。ただ引き戸の場合、引き戸を開けた時に戸が位置する部分には、手すりは壁には設置できないので、手すりの設置が必要な場合、他の場所に設置する必要はあります。
「風通しの良い家」
今の住宅は、断熱性・気密性が向上し、空調効率も上がっています。でも私もそうなのですが、出来る限りエアコンに頼りたくない方も多くいます。酷暑時期以外は、可能であれば自然の風でしのぎたい。
風通しの良い家であるためには、窓が出来る限り四方にあることです。窓は1か所だけ開けても、風は入らず、風邪の入り口、出口の2か所の窓が対角線上に存在する必要があります。
また風向きは日によっても変わるため、家の四方の窓が開いている方が、風通しがよくなります。
「小さな段差」
書籍からの情報ですが、家庭内での死亡事故者数について、65歳以上が最も多く、転倒・転落が原因の上位に上がっているとのこと。そして意外なことに、階段等に高い所からの転落より、平らな所での転倒による不幸が多いと書かれています。
推察するに、平らな所の方が油断しているから? ではないかと思いますが、いずれにしろ平らな所の段差も、極力無くした方が良いと考えられます。
階段を除いて、家の中で段差が大きいのは、玄関、勝手口の出入りだと思います。この点は後述するとして、室内に関して言えば、今の家は殆ど段差が解消された建具になっているようです。
私の家は5年前に建てました。ドアの場合は蝶番が壁(柱)についているので、床の段差はありません。1階部分は引き戸のため下部にレール、車輪があります。昔の家のレールは凸状にて床から出っ張りがありましたが、今の家の引き戸のレールは凹状に僅かに凹んでおり、これに車輪が入ります(V型レール)。つまり段差が殆どありません。この辺の建具の進化、改善はバリアフリーの考え方が取り入れられた結果なのだと思います。
この辺は考えて建具を選定したわけではなく、そうなっていただけなのですが、家を建てる際は一応、引き戸のレールの構造を確認されておいた方が良いかも知れません。
浴室の入り口は、タカラスタンダードユニットバスの標準仕様が折り戸にて、段差は小さいのですがレールはあります。書籍等では、浴室の入り口も引き戸が推奨されています。この場合、脱衣所に水が流れないよう、引き戸の手前に段差解消用の排水溝ユニットがあるようです。
「IHクッキングヒーター」
家を建てる際、熱源をガスにするか? オール電化にするか? は悩みどころではあります。ランニングコスト的にはオール電化が有利なようですが、設置費用は若干高いのではないかと思います。
私の家内もガスコンロ、IHヒーターどちらにするか? 悩んでいましたが、最終的には光熱費を考えてIHヒーターにしました。
ガスの利点についてはやはり、加熱調理しやすい点と、特に冬場のお風呂の沸かしなおしだと思います。
他方、高齢になった場合はやはり、電気(IHヒーター)の方が安全面でメリットがあるように思います。私の実家もコンロはIHヒーターに変えていました。
この辺を考慮すると、将来を見据えてIHヒーターを採用しておいた方が良い様に思います。
「浴室・トイレ」
高齢になると浴室内に手すりを設置したり、浴用椅子を使う場合も想定されるため、最低でも1坪(二畳)の広さがあると安心です。ユニットバスに「一坪タイプ」と呼ばれる製品があります。
トイレについては通常、入って180度むきを変えるのが一般的ですが、これは高齢者には負担になると書かれてあります。つまりトイレは出入口に対し横向きの方が高齢者に優しいようです。加え、便器の前、片側横ともに1m以上あると要介助になっても対応できると書かれてあります。一般的な日本のトイレは1畳、あるいは0.75畳程度と狭く(わが家も一畳)、この辺は設計時の一工夫が必要な所となります。
確かに元気な内は気付かないのですが、身体が不自由になった場合の事を想像することは大事な事の様に思います。
とは言え、トイレのみのスペースを二畳(1坪)にするのは大きな決断が必要だと思います。このため、トイレ、洗面所、脱衣所をひとつにまとめたワンルームスタイルという方法があるようです。あるいは将来、トイレの壁を抜いて洗面脱衣所とワンスペースに出来るように設計しておくという手があります。
「ワンドア2ロック」
ワンドア2ロックは防犯の基本ですが、身体が動きにくくなる高齢者ほど、防犯意識を高めておく必要があります。
泥棒はドアはもちろん、トイレの窓からでも侵入します。このため、玄関、勝手口を始めとし、窓についても2ロックを心掛けましょう。2つ、3つと補助鍵を付けることで、侵入時間を稼ぐことが浸入防止につながります。
また、窓ガラスを割って侵入する手口が多いようなので、窓には防犯フィルムを貼る、あるいはフィルム入りのペアガラスにするのが有効です。
その他、センサーライトの設置、及び踏むと音のする砂利、防犯砂利を敷設するのも有効です。
「ホームエレベーター」
家の中にエレベーター? お金持ちの話? と思うと思います。私もそう思いますが、高価な車を所有するのを我慢すれば、設置は可能なようです。
現在、ホームエレベーターは工事費込みで200~300万円台で導入できるとネット等に書かれてあります。
ホームエレベーターを設置する場合は、役所に申請書を提出し、確認通知を受けてから着工する必要があります。これは、構造強度等が法規に適合している必要があるためです。
このため、ホームエレベーターを設置するのであれば、新築時が有利です。
将来の設置を想定するのであれば、設置予定箇所を納屋等にしておき、建物の構造計算をエレベーター設置前提とした内容にして確認申請図面にその旨を入れておく必要があります。
リフォームで設置したい場合は、法規に準じた建物である必要があるため、難易度が高いようですが、管轄の行政庁により見解が異なるため、相談してみる価値はあるとのことです。
「床材について」
LDKはフローリングが主流ですが、本によってはコルクタイルを勧めているものもあります。コルクタイルは30cm角で厚みは4mm程度からあり、厚い方が特性を発揮します。コルクの特徴はその肌ざわりで、夏は涼しげ、冬はぬくもりを感じられるようです。またクッション性があるため転んでも衝撃吸収性があります。車いすの走行性も良いようです。
カーペットは、フローリングに比べてホコリが立ちにくいという長所があるようです。カペットタイルは、1枚50cm角単位で購入可能にて、滑り止めテープで固定、部分的に使え、外して洗うことも可能で、ペットを飼う家庭等でも重宝されると書かれてあります。
キッチン、トイレ、洗面所では、クッションフロア(塩ビシート)が防水性、耐衝撃性に優れ、掃除が楽です。
「照明、壁紙の色」
日本の住宅は、白い壁が多いようです。壁紙、珪藻土いずれも白が多用されています。
白は部屋を明るくし、コーディネートしやすい色です。
他方、白色は緊張しやすい色とも書かれてあります。確かに昔の病院の病室は白が基調で、なんとなく居心地が悪かったような気がします。
白がベースでも、少しベージュやクリーム色が混ざると、緊張感が和らぐようです。
蛍光灯も白色より、少し色が付いている暖色系の方が良いのかも知れません。
この辺は、家の設計時でなくても後から変更は可能ではあります。
年齢と共に視力も衰える傾向があるため、照明や色づかいは明るい方が良く、また物と物の識別のしやすい色づかいがケガ等を防ぐためには有効です。
「玄関の段差」
玄関の上がり框の段差は、従来の住宅は30cm程度、この高さは座って靴の脱ぎ履きをしたり、座りやすい高さを意識した高さだったようです。
近年の住宅では、20cm程度となっています。確かに、私の家も測ってみましたが、21cmでした。
上がり框の高さは=段差なので、高齢者にとっては低い方が好ましいと思います。他方、高さがあると座れるメリットはあります。
このため、高齢者用にベンチの設置も便利そうです。こう考えると、玄関のスペースも、ある程度広い方が改造が効くため、高齢者には優しいように思います。
上がり框の高さは、玄関の三和土の高さを上げれば、段差は少なく出来ますが、床の高さは基礎部分の高さがあるため、その分玄関ポーチ部分に段差(階段)は増えるのだろうと思います。つまり、ポーチの段差、三和土と上がり框の段差、トータルで考えて、設計する必要があります。いずれにしろ、段差部分には手すりの設置は将来的に最低限必要なので、この点は設計時にも考慮しておく、あるいは最初からポーチ部分には手すりを設置しておくという手もあると思います。
「手すりについて」
現在の住宅においては、階段への手すり設置は法律で義務付けられています。これは高齢者でなくても、必要な設備であり、良い事だと思います。
加え、高齢になるにつれて、各所への手すりの設置が必要となってきます。
一口に手すりと言っても、一般的な横手すりに加え、立ち上がる動作が必要な箇所には縦手すりが必要です。これは、玄関やトイレ、浴室などに備える必要があります。
手すりは「必要に応じて、最低限」が望ましいとされています。数が多いから安心というわけではなく、適所への設置が大事です。及び、使う人の意向を尊重して設置する必要があります。また、体重を預ける設備のため、しっかりとした設置、固定が必要です。安易な素人工事よりは、プロに任せた方が安心です。
また、細かいようですが、手すりの端部分の形状も大事と書かれてあります。端が出っ張っていると、袖口を引っ掛けるため、端がR状になっている等、引っ掛かり難い形状のものが望ましいようです。
「老後を見据えての家づくり」
戸建て住宅を建てるのは、金銭的な余裕の無い限り、ほぼ一生に一度だと思います。家づくりは人生の大きなイベントの一つですが、お金は他にも必要であり、家づくり、家の維持にかける経費は極力少なくし、負担を軽減すべきというのが私の考えです。
そのためには、新築時だけでなく、高齢になっても住むことを想定し、高齢時の生活スタイルを想像し、設計時に必要な事項を盛り込んでおくことが、長い目で見た場合、トータルの経費を抑えられるのではないか? と思います。
私が家を建てた際、この点の認識が浅かったことが家づくりの反省点の一つです。
このため、将来、老後を見据えて設計時に盛り込んでいた方が良い構造や設備が無いかも検討しておくことをお勧め致します。
ここに紹介した内容は、設計時に考慮されておいた方が良いと思ったものをピックアップして記事としました。参考となれば嬉しい限りです。
最後に、記事作成にあたり参考とした書籍を紹介しておきます。
「(50代からの快適住まいは)80%バリヤフリーの家」
トーソー出版 ¥1600
ISBN 978-4-924618-97-8
「(認知症家族に寄り添う)介護しやすい家づくり」
堀越智(編著) 日刊工業新聞社 ¥2200
ISBN978-4-526-08715-0
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